無垢の歌 大江健三郎と子供たちの物語

 野崎歓

2022年7月刊行

四六判上製 232頁

定価(本体価格2,000円+税)

ISBN978-4-910790-04-6 C0095

  

チャイルドライクな文学のために

大江健三郎の描く子供たちはなぜ、ひときわ鮮烈な印象を残すのか。〈無垢〉への比類なき想像力にせまる、まったく新しい大江論にして、最良の“入門書”。
これから大江文学と出会う世代へ。読まず嫌いのまま大人になった人へ。大江文学の意外な面白さに触れる一冊。




目次

 

◆第一章 チャイルドライクな文学のために
「文学国語」と「論理国語」
大江健三郎を教科書に?
子供っぽさの魅力
チャイルドライクな文学

第二章 学生作家の栄光と不安
憧れの仏文
翻訳から創作へ
くそまじめな精神を打破せよ
さらば、象牙色のジャガー

第三章 赤んぼうの敵
本当の主人公生殺与奪の権
三島由紀夫は批判する
にび色の瞳をしたきみ

第四章 一九六九年のパーコーメン
ホメーロスのごとくに
切除と不在
頭部への打撃
共感の源泉

第五章 鳥は歌い、鯨は叫ぶ
ギミー・シェルター
「善きもの」と「魂」
樹木は鯨となる
精霊としての幼児

第六章 逆転また逆転
子供たちの行進
空飛ぶ円盤と立体スクリーン
オノマトペの嵐
走れ、われわれの子供ら

第七章 反時代的ゲーム
村の消滅にあらがって
困惑させる細部について
記紀神話の世界へ
再生する神話

第八章 神隠し願望
不屈の抵抗かくれんぼの誘惑
「神隠しに遭いやすき気質」
少年は境界を超える

第九章 男たちよ!
長篇から短篇へ
同級生交歓
壊れていく男たち
パパの帰還

第一〇章 「ただいま」と「お帰り」
敷居をまたぐとき
出たり入ったりする運動
「死んだ人間もまた帰ってくる」
帰還する子供

第一一章 上品な人間
人物再登場
非=性的人間?
非=生産的人間?
人間の真っ当さ

第一二章 未来の子供
イーヨーとお祖母ちゃん
個人神話を造り直す
時間差と悲しみ
オープンエンディング
文学は再来する
エピローグ――年老いたヒカリとともに

 


あとがき

 


野崎 歓(のざき・かん

1959年新潟県生まれ。フランス文学者、翻訳家、エッセイスト。放送大学教養学部教授、東京大学名誉教授。2001年に『ジャン・ルノワール――越境する映画』(青土社)でサントリー学芸賞、2006年に『赤ちゃん教育』(講談社文庫)で講談社エッセイ賞、2011年に『異邦の香り――ネルヴァル「東方紀行」論』(講談社文芸文庫)で読売文学賞、2019年に『水の匂いがするようだ――井伏鱒二のほうへ』(集英社)で角川財団学芸賞受賞、2021年に小西国際交流財団日仏翻訳文学賞特別賞受賞。プレヴォ、スタンダール、バルザック、サン= テグジュペリ、ヴィアン、ネミロフスキー、トゥーサン、ウエルベックなどフランス小説の翻訳多数。他の著書に『こどもたちは知っている――永遠の少年少女のための文学案内』(春秋社)、『フランス文学と愛』(講談社現代新書)、『翻訳教育』(河出書房新社)、『アンドレ・バザン――映画を信じた男』(春風社)、『夢の共有――文学と翻訳と映画のはざまで』(岩波書店)など。